午後3時40分。
窓に顔を押しつけるようにして眼下の雲海を眺める。
高度6100メートル、時速720キロだが、
景色はほとんど静止している。
小さく、もこもこと沸き上がる雲の群れは、
見つづけていると、人や動物や樹木のように見えてくる。
魂すら宿っているかのようだ。
このまま上昇しつづけ、上部成層圏まで行ってほしい。
地上にへばりついた混乱を尻目に、
はるか彼方で地球を眺めながら暮らすのだ。
しかし、それも意外と退屈かもしれない。
高気圧のへりを通過するので、気流が不安定になるという。
機体が小刻みに振動する。
高気圧に意識はあるのだろうか。
宮古の島影が見えたとき、故郷に戻ってきたような感慨が
わずかに頭をもたげたが、すぐにそんな考えを一笑に付した。
ぼくらにとって故郷などどこにもなく、
いたるところが故郷である。
天気は良好。
午後4時5分、宮古空港に着陸。
南西の風、3メートル。
気温25度。
冷気漂う逗子を出るときには
ユニクロのフリースを2枚重ね着していたが、
すでに那覇空港でリュックにつめてしまった。
まだ夏がいた。
逗子に置いてきたウエットスーツをちらりと思いだし、
すぐに頭から追い払った。
空港で、「ひららや」のヒロさんが出迎えてくれた。
(http://www.miyako-net.ne.jp/〜hiraraya/)
通年にくらべれば、はるかに暑いと言って、
屈託のない笑顔を放った。
それを見て、ぼくのこわばったからだから力が抜けていく。
その日のうちに冬から夏へやってきて、
脳が解凍しはじめた。
ただそこにあるというだけで
それ以上に無理をしなくてもすむ暮らしがありうる。
そんな妄想が生ぬるい風とともに、ぼくの頬をかすめた。